スポーツビジネスコラム

アスリートのセカンドキャリアを考える。データから見る今何をしなければいけないのか?

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現状のデータから見えてくる課題と提言

はじめに
プロやトップレベルのアスリートとして活躍している皆さん、現役生活に全力で取り組む一方で、引退後のセカンドキャリアについて不安を感じている方も多いのではないでしょうか。スポーツに打ち込んできた人生から一転、社会人としての新たな一歩を踏み出すのは誰しも不安がつきものです。

そこで今回は、スポーツキャリアサポートコンソーシアムが実施した「アスリートのキャリアに関する実態調査」の結果から見えてきた、アスリートのセカンドキャリアの現状と課題、そして今後に向けた提言をご紹介します。この記事が、将来に悩むアスリートの皆さんの一助になれば幸いです。

文部科学省スポーツ庁のデータより取ってきました

https://www.mext.go.jp/sports/content/20200508-spt_sposeisy-300001067_2.pdf

https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/list/detail/1419295.htm

アスリートのキャリア支援、取り組みはまだ不十分

まず衝撃的だったのが、競技団体やJリーグ加盟チームの44.9%、大学の27%しかアスリートのキャリア支援を行っていないという現状です。デュアルキャリア(※)という考え方に関する教育も、競技団体で12.9%、大学で40%にとどまっています。
※デュアルキャリアとは、アスリートとしてのキャリアに加え、学業や仕事などの第二のキャリアを並行して追求すること。

さらに、アスリートのキャリア支援を行っていない理由として、「アスリートや学生からのニーズがなかった」という回答が最多でした。競技団体で56.5%、大学で46.2%に上ります。

一方でアスリート自身は、
・競技の続け方の選択肢を示してほしい
・早い段階からOBの話を聞く機会がほしい
・将来のキャリアを考えるきっかけを提供してほしい
など、支援を求める声が多数挙がっています。ここに、支援する側とアスリートの間の意識のギャップが浮き彫りになりました。

企業とアスリートの間にも意識の差

次に企業の視点から見ると、アスリートのコンピテンシー(能力・資質)の捉え方について、競技団体・大学と企業の間で大きな差が見られます。

競技団体・大学はアスリートの長所として「主体性」「規律性」「実行力」「ストレス耐性」を高く評価する一方、採用経験のない企業はいずれの項目も低い評価にとどまりました。一般の学生とアスリート学生の違いを企業があまり認識できていないようです。

また、企業がアスリートに期待する役割としては「営業・販売」が34.7%で最多でしたが、「分からない」も28.4%に上り、具体的にアスリートをどう活用すべきかイメージできていない企業が多いことがわかります。

どのようにセカンドキャリアに向けて考えるべきか

では、アスリートはどのようにセカンドキャリアに向けて考えるべきでしょうか。大切なのは、早い段階からキャリアプランを描くことです。

具体的には、以下のようなステップを踏んでいくとよいでしょう。

  1. 自己分析
    まずは自分自身のことを深く知ることから始めます。
    ・どんな性格か
    ・どんな強み・弱みがあるか
    ・何に興味・関心があるか
    など、自分の特性を棚卸ししてみましょう。アスリートとしての経験から培った能力も重要な強みです。客観的に自分を見つめ直すことが大切です。
  2. 将来のビジョン設計
    次に、自分がどんな人生を歩みたいのかを考えます。
    ・何をしたいのか(仕事、生活、趣味など)
    ・どんな生活を送りたいのか
    ・どれくらい収入が必要か
    など、具体的に理想の将来像を描いてみましょう。漠然としたイメージでもOKです。
  3. 情報収集
    自分の目指す姿に近づくために、必要な情報を集めます。
    ・興味のある業界や職種の情報
    ・必要なスキルや資格
    ・活躍している先輩アスリートの事例
    など、本やネット、人脈を活用してリサーチを行いましょう。インターンシップなどの就業体験も有効です。
  4. アクションプランの策定
    集めた情報をもとに、目標達成のための行動計画を立てましょう。
    ・いつまでに何をするのか
    ・そのためには何が必要か
    ・誰に相談・協力を求めるか
    など、できるだけ具体的に落とし込むことが重要です。現実的な計画を立てることで、一歩ずつ前に進むことができます。

セカンドキャリアを考えるのは、一朝一夕にはいきません。しかし、早めに意識し、行動を起こすことで、道は開けてくるはずです。

セカンドキャリアに向けて今できること

現役アスリートの皆さんにできることも、たくさんあります。セカンドキャリアに向けては、今からコツコツと準備を進めておくことが何より大切です。

例えば、以下のような取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

どんなことも学ぶ姿勢

競技だけでなく、幅広い分野について学ぶ姿勢を大切にしましょう。
・読書や勉強に取り組む
・資格取得にチャレンジする
・他分野の人と交流する
など、視野を広げるための行動が重要です。学ぶ姿勢こそがアスリートの大きな強みと言えるでしょう。常に向上心を忘れずに。

人脈やネットワークを広げる

人との出会いは宝物です。積極的に人脈を広げることで、将来の選択肢も広がります。
・合宿や遠征先での出会いを大切にする
・SNSなどを活用して交流する
・OB・OGとつながりを持つ
など、様々な場面で人とのつながりを作っていきましょう。特に先輩アスリートの話は参考になるはずです。

社会とのつながりを持つ

スポーツ界だけでなく、社会とのつながりを意識的に持ちましょう。
・ボランティア活動に参加する
・地域活動に顔を出す
・企業のCSR活動と連携する
など、スポーツを通じて、社会貢献活動を通じて社会との接点を増やしていくことが大切です。スポーツの枠を超えた活動は、新しい気づきをもたらしてくれるでしょう。

サッカー選手としてユニフォームを着ながら、地域の交通安全イベントに参加する筆者の選手時代の写真
筆者のスポーツ選手時代で、地域の交通安全イベントに参加する様子

自分らしさを大切にする

何より、自分自身と向き合い、自分らしさを追求し続けることが何より大切です。
・心と体の声に耳を傾ける
・やりたいことを見つめ直す
・大切にしたい価値観を持つ
など、自分自身の軸をしっかりと持つことが、セカンドキャリアを歩む上での原動力になるはずです。

デュアルキャリアへの理解を深める

こうした現状を踏まえ、今後はデュアルキャリアの考え方を社会全体に浸透させていくことが重要だと考えます。

具体的には、
・競技団体や大学によるキャリア支援方針の策定
・アスリートのニーズ把握とロールモデルの提示
・企業への啓発活動によるアスリート採用の増加
・アスリート本人によるスポーツ経験の棚卸しとスキルアップ
などの取り組みが求められます。

競技と仕事の両立という選択肢を増やすためにも、スポーツ界と企業、そしてアスリート自身がデュアルキャリアへの理解を深め、連携を強化していく必要があるでしょう。

アスリートであることは人生の一部

かつてはアスリートというとスポーツ一筋、引退後の人生設計はおざなりになりがちでした。しかし、本来はアスリートであることは人生の一部に過ぎません。

「人としての生き方」と「アスリートとしての生き方」、この2つの人生をどう織り交ぜ、どう紡いでいくのか。その答えはアスリート一人一人が見出していくものだと思います。

周囲からの理解と支援を得ながら、スポーツと社会を行き来する経験を重ねる中で、きっと新しい活路も見えてくるはず。現役時代から意識的にセカンドキャリアを考え、描いていくことが何より大切だと感じます。

アスリートのセカンドキャリアを巡る環境はまだ十分とは言えませんが、少しずつ前進している手応えもあります。スポーツ界、企業、アスリート、そして社会が一丸となって取り組んでいけば、きっと道は拓けるはず。

アスリートの皆さんには、スポーツに全力で取り組む一方で、引退後の人生も大切に考えてほしいと思います。夢や目標に向かってまい進する皆さんなら、セカンドキャリアもきっと切り拓いていけるでしょう。一人一人の輝く未来を心から願っています。

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